農園だよりDiary

2023年10

2023.10.11
 皆さん今日は。

 人の気持ちや社会の変化に関係なく季節は進んで行くものですね。この間までシャツがビショビショになるほど作業するたびに汗が噴き出していたのが、一枚羽織らないと寒いほどになりました。我が家の稲の収穫も先月下旬に無事終わりました。夏からの猛暑で稲刈りはどうなるのかと思っていましたが、やはり収穫時期も暑くてコンバインの座席シートが太陽熱で、またエンジンからの熱で暑くて、おまけに刈り取るときの埃が巻きあがり最悪のコンディションでした。しかし収穫の喜びはそれに勝るものがあります。プリプリに膨れた籾の付いた稲穂がコンバインに吸い込まれ処理されてトラックのタンクに移し替える時、この時間がいつまでも続けばいいのにと思いますが現実にはコンバインのタンクに有る分で終わり、次の列の刈取に進みます。あっという間に一枚の田んぼの稲刈りが終わり、春から精魂傾けて育てた割にはあっけないものです。それでも昔は何人もの人手と日数が必要だったことを思うと高額な機械は必要ですが、たった一人で済ませることが出来て良いですね。

 現代は便利な社会になり機械化されCO2排出をしても一人で稲の収穫が出来るようになった半面、温室効果ガスによる温暖化が大きな問題になっています。農業分野でも将来、日本では気温が高くなり稲の栽培が難しくなり、日本人はサツマイモを食べなければならないと言う話を以前テレビで見ました。「そんな馬鹿な!」ところが今年は東北地方、特にコシヒカリの大産地新潟で米に高温の影響が出たと言う報道が沢山されました。本来稲は暖かい気候の作物なので温度が高いのが好きなのですが、今年は好きの範囲を超える高温だったと言う事でしょう。米は普通、品質検査を経て流通します。検査等級は1等から3等それ以下は規格外。例年、白くなった米粒は多少ありますが、今年は高温の影響で白くなった米粒が規格より多くて3等、規格外が多いそうなのです。等級が下がると農協買い取り価格も下がるので農家にとっては死活問題なのです。そこで農協関係者による食味検査をして、味には問題ないと農業新聞には書かれていましたが、味に問題がないのになぜ等級が付けられるのか不思議な事です。何のための等級なのか。我が家はイチゴ栽培もおこなっています。以前、イチゴ栽培農家が国内に沢山いて産地間競争が盛んな頃、他産地より店頭での見かけが良いようにパック詰めは粒を揃え、300gパックに400g以上詰めてボリュームアップ。農協部会で等級、規格を決めて検査を行っていました。年に1度、阿蘇から消費地に市場視察に行き、店頭を見ると、秀品、優品、良品みな同じ棚に同じ値段。「なんだこれ。」農家の苦労は何だったんだろうと言う思いだけが残りました。時代が進み、毎晩夜中まで続くイチゴパック詰めが若手後継者に敬遠されイチゴ農家は年年減少し、産地は縮小、消滅。一方1パック400gは食べきれないよと言う消費者の声と、生産量が減少して買い手の皆さんに行き渡らない状態が危惧され、今では200gパックには200g、小さくしたパックに表示通り。大小、等級は厳密には決めない「簡素化」パック詰めが主流のようです。

 農産物は何の為にあるのか。消費者にとっては命をつなぐ為の物でしょう。農家にとっては命をつなぐ為の物ともう一つ、農家経済をつなぐ物でもあります。なので少しでも高く売りたい。そのためには食べる人の信頼を無くす物はダメだ。見かけのより良いものを作りたい。と言う事で等級が生まれたのでしょう。もちろん米は精米するときの歩留まり、真っ直ぐなキュウリは輸送コストが下がる事もありますが、高く売りたいと言う農家の長年の努力で日本の農産物は芸術品のように輝いて、食べてしまうのはもったいないほどです。

 平成5年。日本中で米の大凶作がありました。くず米交じりの米でも奪い合いでした。他の国が当てにして例年輸入していたタイの米を日本は高額で買い取り緊急輸入しました。不足したときには見かけなど、どうでもいいのです。皆さんの手元に行き渡るのが最優先事項です。日本は幸せな国です。
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