農園だよりDiary

2025年11

2025.11.20
 皆さん今日は。

 長い夏が終わり阿蘇にもやっと秋がやってきました。
米が貴重な作物だった昔から、農家は収量が多く取れる品種を植え付けました。阿蘇では今の品種「コシヒカリ」ではなく「日本晴」を植え付けました。昔の品種は栽培期間が長く、稲刈りは10月になってからでした。子供の頃には9月下旬になると寒かった記憶があります。早霜が降りると、未熟な籾は低温にさらされ凶作になりました。阿蘇の役犬原地区には「霜神社」があります。昔から早霜に苦しんだ先人たちは8月19日から10月16日までの59日間、火を焚いてご神体を暖める「火焚神事」を始めました。阿蘇地方では霜宮さんの火焚が終わったら、いつ霜が降りても仕方がないと言われてきました。今年の初霜は10月29日。暖かい気候の中で9月中旬に刈られた稲の刈株からは「二番生え」が育っています。

 そんな暖かい気候の中で毎年暮れに皆様にお歳暮としてお届している野菜に非常事態が発生しています。社員3人の中で私が担当している白菜は「ダイコンハムシ」という害虫に食べられレースのカーテン状になりました。毎年少しは食べられて外葉に穴が開きますが気温が下がると虫の活動も治まっていました。ところが今年は真夏のような暑さが続いたなかで、活動が治まる頃に交尾があり、第2世代が発生して写真のように葉の柔らかい部分は食い尽くされました。白蕪、赤蕪もやっと出た芽が食べられ2回蒔き直しました。農協に行けば農薬はいろんな種類があり、害虫は恐れるものではないのですが有機米生産者が有機食品を求めている消費者の皆さんに化学農薬を掛けて育てた見栄えの良い野菜を送るのはブラックユーモアだなと思って畑に行っても我慢して、ただ見ています。今年のお歳暮野菜セットは期待をしないでください。

 最近は温暖化、それにグローバル化に伴って外来生物の被害が多くなりました。我が家の有機栽培トマトは近年日本に侵入した「ギバガ」という外来昆虫に葉、新芽、実を食べられ、例年11月まで収穫できるのに9月中旬で収穫断念になりました。本来自然界は生物多様性によりそのバランスが保たれています。ところが外来生物には天敵がいないし、農家も初めての遭遇なので対処法も分からず、ハウス内に侵入されたら被害甚大です。

 消費者の皆さんはスーパーの野菜売り場に並べられている野菜を品定めして購入されます。並べられている物は「商品」で、対価を払えば簡単に手に入ります。ところが農家はその野菜を育てる為に沢山のリスクを回避しなければなりません。最近は線状降水帯による大雨、水害。また渇水。日照不足、病虫害。食べる時は一瞬でも育て上げるまでには何か月もかかり、栽培期間が長いほどリスクも多くなります。また、以前は全国の生産者も多くいたので豊作になると価格が暴落し、出荷段ボール代や市場までの運賃も賄えなくてトラクターで畑に鋤き込んでしまうこともよくありました。その反動なのか子供には不安定な農業を継がせない農家が増え、最近では生産量減少によるキャベツの高値が続いてテレビのニュースに取り上げられるほどになりました。ほとんどの農産物は市場原理により価格が決まります。供給が多ければ値下がりし、少ないと値上がりします。値下がりが続くと農家は経営が維持できないので他の作物に変えるか高齢者であれば廃業します。

 失われた30年。米価は下がり続け、全国の米作り農家は減少の一途をたどっています。政府は農家の規模拡大、AI、自動運転農業機械等でそれを補おうとしています。例えば、田んぼの水管理は毎日欠かせない作業です。そこで水口の開閉を自動で行う技術を宣伝していますが水路には草や藻が流れていて毎日の見回りは欠かせません。自動だからと安心していると水取り入れ口に草が詰まって田んぼが干上がっていることも考えなければなりません。そういった単純な作業の積み重ねがリスク回避につながり、安定した生産の基本です。人の命を繋ぐ食べ物は人の目で確認し、見守りながら育てたいと思うのですが・・・。
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